「マーケティング1.0」では、製品をマス市場に売り込むことや、自社製品の機能がいかに優れているかを訴求することが重視された。「マーケティング2.0」では、顧客志向のマーケティングであり、顧客を満足させることを第一義とした。「マーケティング3.0」では、消費者の心からの共感を得られるような価値の追求に重きを置く。
「マーケティング3.0」では、人を人として見ること、人間は共感したり応援したくなったりすること、移り気になったりもすることなど、全人格的な存在として人間を見るようになったことが大きな進展と言える。
近代マーケティングは、1950~60年代に完成したとされている。
黎明期のマーケティングを「マーケティング1.0」とよび、この時代は消費者をただ消費する存在として見ていた。毎年10%以上市場が拡大していたので、競争相手をあまり意識しなくてもそれなりに成長できた時代である。ところが、70年代に2度のオイルショックを経たあたりから市場が成長しなくなってきた。
1990年代、企業が一生懸命努力しても、業績が低下するということが如実に出てきた。その理由は社会背景が成熟市場へと変わったきたことにある。不況による消費冷え込みに伴い、時代は需要過多。これまでの製品を中心としたマーケティングでは通用しなくなり、マーケティングのコンセプトは「製品を売ること」から「消費者が何を望んでいるか」にシフトするようになる。この時代のマーケティングは「マーケティング2.0」にバージョンアップされ、消費者を年齢や嗜好でカテゴライズされた分類として見るようになる。
ここ最近までのマーケティングが、この「マーケティング2.0」だとしたら、これからのマーケティングである「マーケティング3.0」では、人を「全人格的存在」として見ることがコンセプトになる。
「マーケティング2.0」のターゲットセグメンテーションでは、人は分類される存在だったが、「マーケティング3.0」では、さまざまな要素を持つ複雑な「人として」向き合っていくコンセプトにバージョンアップするようになった。
この流れは、かつてフランスの哲学者シャルル・フーリエが分類した人間の欲望に酷似している。
フーリエは欲望を基本情念として3つに分け、第一段階は動物レベルの欲望でそれが満たされると幸せに感じる。第二段階では友情、野心、愛といった人間としての感情価値が満たされることがモノサシになる。第三段階になると、自らを混乱させるものや想定外のモノゴトに触れたくなる、単調な生活から脱け出したくなる、新たなインスピレーションを求める行動に出たくなるなど、人間たるゆえんの行動への欲望が生まれてくるとする。
人は、「複雑」で「つかみきれない」存在。こうかと思ったら、「逆に」別のことをしたくなる。そういう存在だと認めることが、「マーケティング3.0」の市場に対する新しい見方である。