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脱コモディティ化のための処方箋として、概ね、次の二つのことが指摘されている。
一つは、特定の製品機能上の差別化や性能競争に軸足を置くのではなく、価値次元のベースを製品属性から使用上の文脈へと転換し、「新しい用途やカテゴリーの創造」に注力すること。もう一つは、機能的価値のみに依存せず、感性的価値や経験的価値にも軸足を置き、ブランドを通して「顧客との関係性を形成・維持すること」である。
例えば、この二つの条件を満たす成功事例として、しばしば取り上げられるのがアップルのiPodである。それは、音楽の楽しみ方を根底から変えたブランドとして、まさにiPodというカテゴリーを創造し、また、顧客との間に強固な関係性を形成・維持しているブランドである。
良く知られているように、iPodの主要部品は外部調達したものが多く、技術や性能面での大きな競争優位がある訳ではない。むしろ、「ユーザーがすべての音楽コレクションを外へ持ち出し、その日の気分で好きな楽曲を選んで聴ける」というコンセプトが、全く新しい音楽の楽しみ方を生み出し、新しいカテゴリーを創造したのである。
また、白いイヤフォンやシンプルなデザインといった五感に訴えかける感覚的な価値に加えて、アクセサリーなどでカスタマイズして使い込むことで感じる愛着、NIKE+などと組み合わせてジョギングを楽しむ体験など、さまざまな経験的価値への拡がりを意図してデザインされた顧客価値も、顧客との関係性構築の基盤となっているのである。
ここで重要なことは、こうした独自のコンセプトや顧客価値は、iPodというブランドを通して顧客に伝達され、また、顧客との関係性は、iPodというブランドを通して形成・維持されるということである。まさにブランドは、創造した価値を伝達し、顧客を獲得・維持する上での要としての役割を果たしており、ブランド構築は脱コモディティ化と一体の関係にあると言える。
価値提供から価値共創へ
ところで、iPodの「音楽を楽しむ経験」という顧客価値は、決して固定的なものではない。むしろ購買後に音楽管理ソフトのiTunesや音楽配信サイトのiTunes Storeを利用し、アップルという企業と相互作用する中で、その価値の中身は大きく変わっていく。すなわち、単に「音楽を楽しむ経験」という価値が一方的に提供されるのではなく、iPodを介してアップルと顧客が相互作用する中で、新たな価値が「共創」されていく、という側面が存在するのである。
このように、顧客価値の中には、製品の使用プロセスにおいて、顧客と企業(あるいは製品)が相互作用する中で生み出される価値もあり、近年、そのような「価値共創」の重要性が指摘されている。すなわち、「価値があるから製品を買う」のではなく、むしろ「消費することで価値が生まれる」という大きな発想の転換である。
また、顧客価値を実現するために、顧客との価値の共創を目指す。顧客との価値共創のために顧客との関係性を志向する。そして、顧客との価値共創の結果として、顧客との関係性が更に強化される、という循環が必要となる。そして、その循環の中心にあるのはブランドである。
「make and sell」(作って売る)から「sense and respond」(感じ取って対応する)、そして「co-creation」(共創)へと、マーケティング上の課題は大きく変化してきている。
その大きな流れの中で、自ら創造した価値を獲得・維持していくために、顧客との価値共創のプロセスを、どのようにデザインするのか。いまそのことが、ブランド構築の新たな課題として問われている。
(青木幸弘:あおき・ゆきひろ
=学習院大学経済学部経営学科教授)
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